酉の市の熊手

今日は酉の市。テレビを見ていたら、浅草の酉の市の様子を報道していました。

一度だけ行ったことがあります。今から２６年前の丁度今頃です。

私の母は当時、裁縫業を営んでおり、従業員を１００名程雇っていました。「商売繁盛の祈願は欠かしちゃいけない」が口癖でした。「昨年、酉の市で買った熊手を鷲神社に還し、新しいのを買う」と言います。その日、母は体調が悪く熱がありました。「行くのはやめなよ」と言いましたが、私の言うことなど聞きません。「心配ならついてきな。荷物運びだ」と言います。仕方なくついていきました。

凄い人込みでした。皆、商売繁盛祈願できているので、初詣の混雑とは違った気合を感じました。母の消耗が気になりましたが、最大限の親孝行をして、目的を果たしました。

そのあと、下町情緒溢れる老舗「駒形どぜう」に母を連れていきました。すでに長い行列ができていましたが、そこに勤める友人に前もって電話をしていて、便宜を図ってもらいました。

母の具合はいよいよ悪くなり、浅草から千葉県柏市の自宅まで、タクシーで帰ることにしました。「ありがとうね。また連れてきておくれ」とタクシーの中で、母は言います。私は「あぁ」とだけ答えました。涙が出そうで、声が震えそうで、それしか言えませんでした。

母が再び酉の市に来ることはありませんでした。既に母は末期ガンで、程なくこの世を去りました。

今日の切り絵は、酉の市の熊手です。

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