内なる磁石

作家の里見弴(さとみとん)が1953年に書いた『道元禅師の話』の中に「磁石」という言葉が出てきます。現代語に直して、その一部を抜粋して紹介します。「人は、ことに臨(のぞ)み、対応するとき、無意識に瞬時に判断がついているときが多い。それは体内の狂いの少ない磁石のようなものがあり、その磁石が指し示す方向に、自ずと動くのではないか」。

つまり、こういうことです。「人には体内に、知識でも、法律でも、思考でもない、本能の磁石のようなものがあり、それが“これは○”、“これは×”、“これは為すべき”、“為さぬべき”と瞬時に判断する。そして理屈は後追いで作られる」。

物事の良し悪しや是か非は、頭で考えなくてもよいのかもしれません。「むしろ考えると、個人の損得勘定が作動し、己の利のある方に動きがちだから、それは正しく自分の人生を生きていることにはなりにくいときがある」と里見は言っています。潔い、魅力的な考え方だと思います。

今日の切り絵は、「自分の方位磁石を信じて」です。

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