映画『メグレ 若い女の死』を観て

久々にパトリス・ルコント監督の映画を観ました。彼の映画のすっきり短くまとまっているところが好きです。今まで観たのは『仕立て屋の恋』(80分)、『髪結いの亭主』(82分)。今回も89分でした。

原作はジョルジュ・シムノンです。彼が書いたメグレ警視シリーズは、フランスを代表するミステリーです。数冊読んだことがありますが、文体はすこぶる簡潔、展開もスピーディーです。しかし派手さはあまりありません。その分、人間の心の闇をきちんと描いています。では映画のあらすじを紹介。


1953年のパリ。ある日、モンマルトルの広場で、シルクのイブニングドレスを着た若い女性の刺殺体が発見された。血に染まったドレスには5か所の刺し傷。この事件の捜査を依頼されたメグレ警視は、死体を見ただけで複雑な事件になる予感がした。死体のそばに持ち物類は何もなく、事件を目撃した人もいない。彼女が誰なのか、どんな女性だったのかを知る人もいない。そんな状況で、若い女性には不釣り合いなほど高級なドレスが彼女を特定する唯一の手がかりに。メグレ警視は捜査を進めていくうちに、身元不明の彼女がどうして殺されなくてはいけなかったのか、彼女はどんな人生を送ってきたのかを探っていく。この事件にのめり込んでいくメグレ警視。何が彼をこれほどまでに駆り立てるのか。


今日は、メグレ警視の物語をどのように観たらよいかについて、私が思うところを書こうと思います。

派手さがないと前述しましたが、映画『メグレ 若い女の死』にも仰天するようなトリックや展開はありません。ただ、メグレは関係者と丹念に会話を続け、その人たちの心に潜む「謎」や「真実」を探っていきました。メグレは何処にでもいるような人物です。面白いことを言うわけでもありません。ポアロのように灰色の脳細胞からの閃きがあるわけでもなく、コロンボのような愛嬌としたたかさがあるわけでもありません。じっくり付き合っていくうちに味が出てくるような人物です。

「人の心こそミステリーだ」。そう思って観ると、この作品を深く味わえると思います。

「メグレ警視は、忘れた頃に復活する」と言われます。映画化されたのも60年ぶりでした。確かにメグレ警視を知らない人も多いと思います。妻に「メグレって知ってる?」と聞いたら、「知ってるよ。名探偵コナンの目暮(めぐれ)警部でしょ」と言いました。う~ん、間違ってはいませんが、どちらが本家か理解はしていないようです。ただ名探偵コナンの目暮警部の在り様は、メグレ警視の生き方を反映させている部分があります。両者とも、偉い人やブルジョワ階級の人の前であっても、捜査中であれば、トレードマークの帽子を取りません。不愛想な反骨精神が彼らの魅力です。

日本の推理小説だと、ジョルジュ・シムノンのメグレ警視シリーズは何に似ているかなと考えました。私は西村京太郎の十津川警部シリーズだと思います。文体が簡潔で、展開がスピーディーというところがよく似ています。「ジョルジュ・シムノンの作品には純文学や哲学の側面があると言われ、西村京太郎とは違う」と指摘されそうですが、いやいや特に西村京太郎の初期の傑作にはそういう匂いも感じます。

なにより、メグレ警視シリーズも十津川警部シリーズも共に100冊以上書かれています。病みつきになる魅力が、二人の名探偵にはあるのでしょう。

今日の切り絵は、映画『メグレ 若い女の死』のチラシを参考に作りました。


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