小説『マスク』(作者 菊池寛)について

この小説は1920年、今から100年以上前に発表されたものです。当時、日本で「スペイン風邪」が流行していました。菊池寛はこの体験を元に、この小説を書きました。

ちなみに「スペイン風邪」は、1918年から1920年にかけて世界的に大流行しました。世界では約6億人が感染し数千万人が死亡、日本でも38万人が死亡したとされています。

多くの名著を残し、文藝春秋社を興した実業家でもある菊池寛が書いたこの自伝的小説は、今読むと不思議な感覚に囚われます。ではあらすじを紹介。


私は、周囲から健康と思われていたが、元々内臓が弱かった。ある日、医者に診てもらった時に「心臓が悪いようです」と告げられた。動揺する私に医者は「発熱は禁物です。高熱が続けば助かりません」と続けた。

その頃、流行性感冒(スペイン風邪)が、猛烈な勢いで流行り出していた。

医者によると、私は流行性感冒に罹ると死ぬ。また新聞には、心臓の強弱が勝負の別れ目といったような意味の記事が幾度も掲載された。私はすっかり脅え切った。

他人から臆病と嗤われても、死にたくないと思った。私は外出しないように心がけた。止むを得ない用事で、外出するときには、必ずマスクをして出かけた。帰るとうがい手洗いを励行した。

私は、毎日の新聞に出る死亡者数の増減に一喜一憂した。感冒の脅威が衰え、マスクを付ける人が減っても、私は付けた。そんな中、私と同じようにマスクを付けている人を見ると、救われた気がした。

感冒の脅威が衰え、ぽかぽか陽気になってくると、さすがの私もマスクを付ける気がしなくなった。

そんな中、私は久しぶりに野球が観たくなった。晴れた日、私は野球見物へ出かけた。そして入場口へ急いでいるときのこと。ひとりの青年が私を追い越した。横顔を見ると、その青年はマスクを付けていた。私はショックと不快感を覚えた。原因は、よい天気の日なのに、青年のマスク姿は、私に感冒の脅威を思い出させたからだ。

そして同時にこんなことを思った。「これは強者(青年)に対する弱者(私)の反感ではなかったか?」。

マスクをする人は激減した。そんな中、毅然とマスクを付けて、数千の人々の集まっている所へ行く態度は、徹底した強者の態度ではあるまいか。「この青年を不快に感じたのは、こうした勇気に圧迫された弱い私の心なのではないか」と私は思った。


コロナ禍を通じて、「同調圧力」というものを実感しました。それはいつの時代でも同じようです。小説『マスク』の主人公も、ときに同調側にいたり、ときに反対側にいたりと、そのときどきで心持ちは変わります。

これが人間本来の姿なのでしょう。私は「この数年来の経験は貴重だった」と思っています。なぜなら「寛容」についての大切さも学んだから。

これからマスクの着用ルールが緩和されます。そんな中、頑なにマスクを付け続ける人もいるかと思います。小説の主人公の言葉を借りるなら、その人たちは「強者」です。私は何が「強者」で何が「弱者」であるかはよくわかりません。ただ、「寛容」と「気働き」は忘れないよう生きていきたいと思います。


今日の切り絵は「ど根性マスク」です。漫画「ど根性ガエル」の原作ではTシャツに貼りつきましたが、マスクにつくのが現代かなと思いました。

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