映画『小説家の映画』を観て

韓国映画を観ました。この映画の監督・脚本・制作・撮影・編集・音楽はホン・サンスです。彼は本作においてベルリン国際映画祭コンペティション部門で銀熊賞(審査員大賞)を受賞。そしてそれは3年連続4度目の受賞という快挙でした。凄い才能ですね。ではあらすじを紹介。

長らく執筆から遠ざかっている女流作家のジュニは、郊外で書店を営む後輩のもとを訪ねた。特に目的もなく何となく立ち寄った。近況を話し、書店を後にしたジュニが次に向かったのは町の名物の展望台だった。そこでは旧知の映画監督夫妻と再会した。うららかな陽気に誘われ公園に繰り出した。すると今度はかつて映画界で名声を得ながらも、今は引退同然の生活を送る女優のギルスと偶然出会った。二人は初対面とは思えないほど互いに親しみを覚え、ジュニはギルスを主演にして映画を撮りたいと提案。共に人知れず迷いを抱えた二人は、思いがけず新たな可能性に飛び込んでいき……。

執筆活動を止めていた作家のジュニはある日、外出をします。そして偶然の再会や新たな出会いを経験し、そこでの世間話や芸術談義の中から、再び創作の意欲が芽生えました。静かな会話劇です。登場人物の誰もが、生き辛さや挫折を抱えています。

特別なドラマチックな出来事は起きません。登場人物は他愛ないお喋りをして、酒を飲んで、くだを巻きます。「この映画は何なんだ?」と思う人もいるでしょうが、そこが魅力です。個々のセリフから滲み出る、人生の躓き、悔恨、希望のひとつひとつが印象的でした。人生に深く挫折したことのある人なら、セリフの一つ一つが心に沁みるでしょう。

筆を折っていた女流作家ジュニと、一線から退いた女優ギルスが、実に美味しそうに韓国のお酒マッコリを呑むシーンがありました。その日に知り合い、意気投合し、紙コップで酒を呑む。「こういう予定外の飲み会って楽しいんだよなあ」と思いました。

とりあえず、街へ出よう。そして誰かと話しをしよう。何かが始まるかもと、映画は語りかけます。

この映画を観ながら、寺山修司の戯曲『書を捨てよ、町へ出よう』の一節を思い出しました。紹介します。

  一番高い場所には何がある?

  嫉妬と軽蔑、無関心と停電の時代を目の下に見下ろして、はるかなる青空めざし、どこへ行こう?

  新宿、品川、池袋…、どこへ行こう?

  朝日の当たる町ならば、書を捨てよ、町へ行こう! 書を捨てよ、町へ行こう!

おうちカフェ さんちゃん

こんにちは!「おうちカフェさんちゃん」です。皆様が気楽でのんびり過ごしていただけるお店です。季節の移ろいを丸窓から眺めながら一息つきに来てくださいね。

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