映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』を観て
現代を生きる多くの人たちに観て貰いたい映画です。戦争の愚かさと、市井を生きる人々の愛の強さや尊い行動を描いた作品です。あらすじを紹介します。
1939年、ポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イヴァーノ)にあるユダヤ人が住む母屋に店子として、ウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは音楽家の両親の影響を受け歌が得意で、特にウクライナ民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露する。
この地区は、第2次大戦開戦後、ソ連による侵攻、ナチス・ドイツによる侵攻、再度ソ連によって占領される。ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって離され娘たちが残される。ウクライナ人で、ヤロスラワの母であり、歌の先生でもあるソフィアは、ユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサ、そして自分の娘を含め3人を必死に守り通して生きていく。
戦況は悪化する。まずは子どもたちを連行しようとソ連軍が家探しを始めるが、ソフィアが機転を利かせて最悪の事態は免れる。次にナチスによる粛清が始まる。そしてウクライナ人の夫は処刑されてしまう。残されたソフィアは、ウクライナ人である自分の娘、ポーランド人の娘、ユダヤ人の娘に加えて「この子には罪はない」と言ってドイツ人の息子を匿うことになるのだった…。
映画では時代背景の説明はありません。なので、ある程度の予備知識が必要だと思います。また第2次世界大戦が終わっても、ウクライナ人が迫害を受けていた事実を知らないと意味不明になると思います。これは、現在のロシアのウクライナ侵攻にも続く問題の基礎でもあるので、知っておいた方が良いです。
しかし反面、難しい背景を知らない子どもたちにも、この作品は観てもらいたいと思いました。国籍や民族を超えて、罪のない子どもの頃ために命懸けで戦った、名もない人間の姿を描いているからです。
ウクライナ民謡「シチェドゥリク」が物語の中で重要な役割を果たします。この唄は「キャロル・オブ・ザ・ベル」というクリスマス・キャロルとして有名ですが,実はウクライナでは、家族みんなで新年の始めにこの唄を歌います。原曲の歌詞内容は,1羽のツバメがある家庭に飛んで来て,その年に起こるすばらしい出来事を予告するというものです。この唄を歌うと幸せが訪れると子どもたちは信じています。希望と明るい未来を感じさせる唄です。
ウクライナ人の幼い娘ヤロスラワは、ソ連の将校の前で、無邪気に、みんなの幸せを祈って、この唄を歌ってしまいました。今だったら、ウクライナ人の女の子が、ロシア将校の前で、ウクライナ民謡を歌うようなものです。危険な行為です。このシーンは観ていて胸が締め付けられるように緊張しました。
第2次世界大戦で、命を落とした人の数は全世界で5千万人~8千万人と言われています。「もし平和が戦争の後にしか来ないなら、平和が来るのは遅すぎる。平和は死者の上に築かれるのか」。フランスの哲学者アランの言葉です。今年2023年は第2次世界大戦の終戦から78年目になります。現代のロシアによるウクライナに対する軍事侵攻は、第2次世界大戦後のソ連のウクライナ侵攻に似ています。過ちは歴史が繰り返すのではなく、人が繰り返しています。
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