映画『コットンテール』を観て
(あらすじ)
最愛の妻(木村多江)を失った夫の兼三郎(リリーフランキー)は、その葬儀で寺の住職から、妻が残した手紙を渡される。
妻は認知症が進行して亡くなったのだが、意識がはっきりしているうちに手紙を書き、住職に託していた。その手紙には、「自分の遺灰をイギリスのウィンダミア湖に散骨して欲しい」と書かれていた。
ウィンダミア湖は、妻が幼いころに旅行し、ウサギを追いかけた思い出のある場所であり、いつか兼三郎と息子のトシ(錦戸亮)の3人で行きたがっていた場所だった。
そして妻の遺品の絵本『ピーターラビットのおはなし』の中から、ウィンダミア湖付近で撮られたと思われる幼い頃の妻と両親が写った写真が出てきた。
妻の望みを叶えるため、兼三郎はトシとその妻子の4人でイギリスに向かった。しかし、作家である兼三郎は自分の世界にこもって生きてきたので、息子のトシとの間には心に溝があった。イギリスに到着の翌日にウィンダミア湖へ行く予定だったが、気まぐれな兼三郎は一人で一足早く出発した。
ところが兼三郎は逆方向の列車に乗ってしまった。乗客から、そのことを教えられ、列車を降りるも、もう戻りの列車の終電車はなかった。困った兼三郎は、付近の農場に助けを求めた。
その農場には。親切な初老の男と娘が住んでいた。事情を聴いた親子は、兼三郎に食事を与え、そのうえ、何百キロもの遠方にあるウィンダミア湖まで車で送ってくれるという。兼三郎は感謝した。
無事に、兼三郎はトシたちとウィンダミア湖で合流するも、写真にあった場所がなかなか見つからない。彼らは探し続けた。次の日、なんとか場所が分かり、兼三郎とトシはそこに向かう。
その途中、兼三郎は足を止め、トシに妻の病院での最期のときの話をした。「明子(兼三郎の妻)は亡くなる直前、家族の名前も分からなくなっていた。全身に激痛が走っていた。それを見た俺は明子を楽にしてやろう(この手で死なせてあげよう)と思った。しかしできなかった」と泣きながら話した。
その後、二人は湖に妻の遺灰を流す。湖を離れるとトシの妻子が待っており、そこにいたウサギを4人で追いかけた。
(感想など)
私事ですが、ウィンダミア湖のあるピーターラビットの故郷であるイギリス湖水地方を、父と2人で旅をしたことがあります。もう父は、あまり歩けなかったので、私は介護役、車椅子を押していました。そして父は遊ぶことが好きだけど、英語はからきしダメだったので、私は道中、通訳も兼ねていました。「面倒くさいなあ」としきりに思う旅でしたが、生前の父と、2人で遠出した最後の機会になりました。映画『コットンテール』は家族の再生と和解をテーマとした物語です。私は湖水地方の美しい風景の映像をみているだけで、あの時の旅を思い出しました。
映画の最後は、家族がウサギを追うシーンでした。そう、私たちが訪れたときも、ウサギがたくさんいました。「おい、ウサギって英語で何というんだ?」と父が言うので、「rabbit(rˈæbɪt) だ」と教えたら、父は「ラビット、ラビット」とさかんに言っていました。もちろんイギリス人には、父の「ラビット」は通じませんでした。映画にも、そんなことを想起させるシーンがあり、観ていて胸が熱くなりました。
「人は愛する者を亡くした後も、その人が残した美しい余韻に浸ることができる」とこの映画は語りかけます。
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