映画『11人の賊軍』を観て

(あらすじ)

新政府軍(官軍)と旧幕府軍(奥羽越列藩同盟・侍)が争う戊辰戦争(1868年)のさなか。

家老の溝口(みぞぐち)は新発田藩を戦から回避するため官軍の側につこうと考えるが、奥羽越列藩同盟に城に乗り込まれてしまう。そこで「同盟のために兵を出す」と嘘をつき、裏では同盟軍が去った後で官軍を迎え入れようと画策していた。

そんなさなか、駕籠屋(かごや)の政(まさ)は妻を手ごめにした新発田藩の武士を殺して死刑を宣告される。

溝口は部下の鷲尾(わしお)に「罪人(死刑囚)たちを引き連れて、藩への通路である砦を官軍から守れ」と命令。時間稼ぎである。官軍と同盟軍を鉢合わせさせないためだった。「無事に任務を果たしたら、お前らの罪は無いものとしてやる」。こんな嘘の言葉に騙された11人はその言葉を信じて砦へ向かう。

こんなメンバーだった。「サムライ殺しの政」、「詐欺師の赤丹(あかたん)」、「放火魔の女性のなつ」、「色狂い坊主の引導」、「ロシアへ密航を企てた意志のおろしや」、「一家心中で生き残った三途」、「侍の女房と恋仲になった二枚目」、「何人も殺した辻斬(つじきり)」、「悪徳地主に強盗を働いた、謎の達人・爺っつぁん」、「脱走を手助けした花火師の息子・ノロ」、そして新発田藩の武士で罪人を束ねる「直心影流の使い手・鷲尾」。

11人の賊軍は官軍と激しい戦いを繰り広げた。しかし政や兵士郎たちは次第に溝口の作戦に利用されて使い捨てにされているだけだと気づき激怒する…。果たして賊軍たちは生き残れるのか?

(感想など)

戊辰戦争において、新政府軍にも旧幕府軍にも新発田藩の家老・溝口にも正義はあります。根っからの悪は存在しなくて、あったのは「正義」と「別の側面の正義」でした。

では、10人の罪人たちはどうだったのか。罪を犯したのは事実ですが、皆にそれなりの事情がありました。死刑になるほどの罪ではなかったと映画では語られます。そして罪人たちは、ただ生き残るという目的のために戦います。彼等には新政府軍の正義も、旧幕府軍の正義もありません。

新政府軍も旧幕府軍も新発田藩の家老・溝口も政治的立場で行動します。家老・溝口は領民を救うために行動しますが、それは罪人たちを犠牲として見殺しにすることでした。

この映画のテーマは現代社会にも通じるものです。名もなき者の犠牲のうえに、世の中は成り立っていると痛烈な批判が感じられました。欺瞞に満ちた世の中では、人と人との信頼関係が崩壊し、裏切りや嘘や空約束が飛び交います。そして弱い者はいつの世でも犠牲になります。

この映画を観ている者の多くは、罪人(死刑囚)たちの行動に喝采を送るでしょう。なぜか。新政府軍も旧幕府軍も新発田藩も弱い者を犠牲にすることに躊躇はありませんが、11人の賊軍には、それがないからです。駕籠屋も博徒も、女郎、坊主、医者、百姓、色男、悪党に剣客も、死罪を宣告された名もなき者たちの間に貴賤はありません。その姿を私たちは応援します。

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