「いてふの実」(作 宮沢賢治)

いちょうも見頃を迎えています。今日は宮沢賢治の短編「いてふの実」を取り上げます。

「いてふの実」とは「いちょうの実」=銀杏(ぎんなん)のことです。

この物語はぎんなんたちの旅立ちの物語です。簡単にあらすじを紹介します。

『そのいちょうの木には今年、千の実がなりました。そして秋になり北風が吹く頃、いちょうの実たちは母親であるいちょうの木から飛び降りて、ひとりで生きていきます。いちょうの旅立ちの前夜に、そっと耳を澄ますと、彼らがどんな話をしているのかを、聞こえてきます。

いちょうの実たちはいろいろな話をしています。例えば、「僕なんか落ちる途中で眼が回らないだろうか」と心配したり、「ね、あたしどんな所へ行くのかしら」と想像したり、「僕は一番はじめに杏の王様のお城を尋ねるよ。そしてお姫様をさらっていった化物を退治するんだ。そんな化物がきっとどこかにあるね」と旅路の冒険を空想したりしています。

いちょうの実たちの旅立ちは、ただ一度です。母親であるいちょうの木から落ちれば、自分たちがいちょうになれるかどうかは、個々の運命次第です。

北風がゴーッと吹いて、彼らは飛んで行きました。「今年も、これでまず、さよなら、さよなら、というわけだ」と北風は笑います』。

清々しい、そして少し淋しい、旅立ちの朝の風景です。

今日の切り絵は、「イチョウの木」です。

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