映画『渇水』を観て

傑作だと思いました。生きる哀しみを見事に描いています。まずはあらすじを紹介します。


日照り続きの真夏。内陸部の地方都市。市の水道局に勤める岩切俊作の仕事は、水道料金が滞納する家庭を訪ね、支払いがなければ水道を停めることだ。滞納者からは「雨が降らなきゃ水道局もお手上げだろ。水なんかタダでいい」と嫌味を言われることもある。

県内全域で給水制限が発令される中、岩切は二人きりで家に取り残された幼い姉妹と出会う。蒸発した父、帰らなくなった母親。困窮家庭にとって最後のライフラインである“水”を停めるのか、否か?

姉妹は有り金を出して、滞納する水道料金を払おうとした。全然足りない。岩切はその金は受け取らず、姉妹に水を溜められるだけ溜めるよう言い、それを手伝ったうえで停水を執行した。

岩切にはやりきれない気持ちがあるが、自分にはどうすることもできないとどこか割り切っていた。

姉妹の母親はいつまでも帰らず、姉妹の所持金もなくなり、自動販売機の釣銭探しをしたり、スーパーで万引きをしたり、水を公園の水道から汲むようになっていた。

給水制限は更に厳しくなった。ついには公園の水道も止められた。岩切はスーパーで万引きをする姉妹の姉を見た。彼は店長に金を握らせ、姉を連れて逃げた。途中で妹も合流。そして公園に行き、水道栓を開けホースを繋げると、狂ったように放水を始めた。

岩切は「俺はこの流れを変えたいんだ」と叫ぶ。「そんなことをしたって何も変わらない!」と姉は反発する。しかし妹が「お姉ちゃん。虹ができた」と喜ぶ姿を見て、姉の顔にも笑顔が戻り、一緒に水を浴び、遊び始めた。

しかし間もなく、報告を受けた職員が駆けつけ、岩切は取り押さえられた。

岩切は警察に連行された。一連の騒ぎもあり、姉妹は児童相談所で保護してもらえることになった。

岩切は間もなく釈放された。職場から辞表を出すよう促された。岩切には妻と一人息子がいるが、別居中だ。岩切には親から虐げられた成育歴がある。自分も息子に対し同じように接してしまうのではないかと、漠然とした不安にさいなまれていた。やがて妻は呆れ、息子を連れて実家に帰っていた。

そんな岩切に息子から電話がくる。「パパ?ボク、家族で海に行きたい」。久しぶりに彼の顔に笑みが浮かんだ。


公務員や行政に携わる仕事をしていると「規則ですから」という姿勢が求められます。私も以前、公務員だったからわかります。「でも本当にそうか? いつもそれが正しいか?」と幾度か真剣に思いました。

この映画は「弱い者を切り捨てる理不尽も、自己決定権のない行政の歯車としては仕方ない」と言い訳をしていた公務員の岩切が、彼の言うところの『しょぼいテロ(給水制限がかかった公園の水道栓を全開に)』をするまでの物語です。私は心の中で拍手をしました。そして組織が個人を守らないのは、公の機関に限ったことではないでしょう。個人で戦うには、腹を決める必要があります。

とはいえ、料金滞納や給水制限がかかった公園の水道栓を全開にするのは、正しい行為ではありません。自然界にあるものは「タダにするべき」という論理には説得力はない。安心安全な水を供給するには、管理するための設備にお金がかかります。

怖くて醜いのは「自己決定権のない行政の歯車としては仕方ない」と割り切ってしまえる人の心です。大切なのは「弱者のためになんとかならないか」と考え続け、声をあげる勇気です。岩切の『しょぼいテロ』に惹かれるのは、貧困による不幸が普通に存在し、対策が停滞していると思われる現代において、「何かしなくては、変化を起こさなければ」という、心に生まれた切実な心意気が感じられるからです。

おうちカフェ さんちゃん

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