映画『カードカウンター』を観て
監督・脚本ポール・シュナイダー、製作総指揮マーティン・スコセッシの映画『カードカウンター』を観ました。この二人と言えば1976年の名作映画『タクシードライバー(監督マーティン・スコセッシ 脚本ポール・シュナイダー)』ですね。期待に違わず、映画『カードカウンター』は素晴らしい映画でした。ではあらすじを紹介。
ウィリアムは、風変わりなギャンブラーだ。米国軍刑務所で10年間服役し、獄中、独学で「カード・カウンティング」と呼ばれるカードゲームの勝率を上げる裏技を学んだ。彼は「小さく賭けて小さく勝つ」がモットーだ。目立たず、匿名でいることを好む。ある日、ウィリアムはギャンブル・ブローカーと出会い、大金が稼げるポーカーの世界大会への参加を持ちかけられる。さらにその直後、二人の男と遭遇した。一人は、自分に“消えない罪”を背負わせたかつての上司ジョン、もう一人はウィリアムにゴードへの復讐を持ちかける若者カークだった。これらの運命的な出会いによって、謎につつまれたウィリアムの人生が徐々に明らかになっていく。そして人生を賭けた復讐と贖罪のゲームの終章が幕を開ける。
ウィリアムの謎につつまれた人生がこの映画の肝です。なぜ米軍刑務所で服役していたのか。
2003年にアメリカはイラクに軍事侵攻をしました。核兵器所有の疑惑からです(兵器は存在しませんでした)。そのとき、アメリカ軍の憲兵はイラクの捕虜に、自白させるために酷い拷問をしました、それにより63名が命を落としました。その拷問写真が流出し、大スキャンダルになりました。アメリカの恥部であり暗部です。
ウィリアムは憲兵の一人でした。ゴードはウィリアムの上官でした。若者カークの父も憲兵でしたが、ゴードの非人道的な指示で精神を病み、自殺していました。カークは金もなく、やさぐれた生活をしています。
ウィリアムは拷問の「自己責任」を問われても、弁明もせず、長く服役しました。しかし犯してしまった罪の意識は消えません。ウィリアムはカークへの経済的支援のために、大金が稼げるポーカーの世界大会への参加を決意します。「復讐などやめろ」とウィリアムは言いますが、カークはゴードへの復讐を実行します。しかし返り討ちに遭い、命を落としました。そしてウィリアムの中で、何かが切れ…。
この映画の訴えたいことは以下のことだと思います。拷問作戦を許可した国防長官や副大統領は何の罪も問わられなかったこと(これは史実です)、ウィリアムのかつての上司のゴードも見苦しい言い訳をして罰から逃げ切りました。そして「自己責任」の名のもとに、下っ端が服役しました。
この映画を観ながら、製作総指揮を務めたマーティン・スコセッシが、かつて残した言葉を思い出しました。「人生において、やり方は3つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。そして自分のやり方だ」。
ウィリアムが最後に選んだ行動は、確かに法的に許されることではありません。だけど…。
矛盾に満ちた現実のなかで、どのようにしたら人間としての倫理と善良さを実践できるのか、それは不可能ではないかと思うことがあります。でも諦めてはいけない。
諦めるのは自分をなくすことです。大きな組織や権力の前でも毅然と生きていきたいものです。
0コメント