映画『ソウルに帰る』を観て
韓国のソウルで、自分の原点探しをする女性の姿を描いた秀作です。人は変わり続け、年月とともに新しい一面を見せるという当たり前のことを気付かせてくれる映画です。では、あらすじを紹介します。
韓国で生まれたが、後にフランス人の両親の養子となった25歳のフレディは、ソウルを訪れた。彼女はゲストハウスのフロント係でフランス語が堪能なテナと意気投合し、レストランで彼女の友人たちと食事をした。そこでフレディは、養子縁組センターを通じて、実の親と連絡が取れるかもしれないと知る。フレディは両親を探すために、韓国に来たわけではないが、テナからの勧めもあり、養子縁組センターを通して両親に伝報を送った。数日後、実父からは返事を受け、実父の住む群山へ向かう。
フレディは、再婚した実父の今の家族と、居心地の悪い時間を過ごした。実父はフレディを養子に出したことを後悔し、涙ながらに謝罪を繰り返す。フレディは父にうんざりし、メールの返信もしなくなった。
フレディはいつも勝気だ。挑発するような言動で相手を試す。あるとき、フレディが一人の男から受けた愛の告白の内容を馬鹿にした。その傲慢な言葉を聞いたテナは「あなたはかわいそうな人」と言い、フレディを拒絶するようになった。
2年後。フレディはソウルに住んでいた。武器商人のアンドレとデートする。彼女は、彼の業界に足を踏み入れていく。フレディは彼に「今日は自分の誕生日。毎年誕生日には、母親が自分のことを思ってくれているか考える」と話す。彼女は友だちから、実母が「会う気はない」と養子縁組センターを通して返事をしたことを聞いた。実父からのメールは、相変わらず無視していた。
5年後。フレディは、アンドレとともにミサイルを売る仕事をしている。韓国出張の際、彼女は新たなフランス人の恋人、マキシムとともに実父に会いに行く。実父は作曲したピアノ曲を聴かせ、その響きにフレディは感動する。翌朝、彼女は目を覚ますと、養子縁組センターから電話が入る。再会を断っていた実母が、養子縁組センターからの電報に前向きな返事をしたらしい。フレディは母親と施設で会い、母親に抱かれて泣く。母親はフレディにメールアドレスを渡し、連絡を取り合えるようにした。
1年後の誕生日。フレディは宿泊するホテルで、初めて母へメールを送信した。「幸せに生きているよ」。しかし母のメールアドレスは無効で、メールは届かない。フレディは、ホテルのロビーで、ピアノを見つけ美しいメロディーをためらいがちに奏でる。
ラストシーン。33歳のフレディは明るい草原の中で、バックパックを背負って、濃いメークもしないで現れます。スクリーンの中で彼女の成長を見続けていた私は、そのシーンを見てとてもホッとしました。すさんだ感じが抜けていました。フレディは、自分の宿命を穏やかに受け入れるだろうと感じました。
それまで、8年間のフレディは、韓国人とフランス人、実の親と育ての親…等々、たくさんの難しい問題の間で、常に不安定で、不機嫌でした。フレディは会ったばかりの韓国人に「典型的な韓国人顔」と言われて、複雑な表情をしました。フランス語を話す韓国人顔のフレディは、普通ではないのです。信頼できる親や友だちが愛情を示しても、それを受け止められず、距離をとります。愛情を素直に受け入れることができません。とても複雑な環境下で、アイデンティティ探しをしていました。フレディの成育歴は難解です。でも、本人にとっては変えようのない、生後間もなく定められた運命です。だから、彼女は恨みを親にぶつけることはしません。
誰でも、人生の中で、辛く、自分の定めを恨みたくなることがあると思います。それでも人は生きていく強さをもっていて、辛いことにも折り合いをつけていく力があります。
自分で折り合いをつけられた時、穏やかな表情で生活できるようになるのでしょう。
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