映画『ナポレオン』を観て

(あらすじ) 18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオン・ボナパルトは目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。ナポレオンは夫を亡くした女性ジョゼフィーヌと恋に落ちてそのまま結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。その一方で軍事面ではナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて英雄としての評価を盤石なものとするが…。

(感想) リドリー・スコット監督のこの映画は、賛否の分かれる作品です。ナポレオンはいまだに「フランスの歴史上最も誇れる英雄」です。なのでフランスの保守系の人々には「反フランス的映画」だと不評だそうです。でもそれゆえ、興味深い映画になっていると思います。

ナポレオンの軍人時代から死ぬまでの、1793年から1821年までを描いています。幾つもの戦争が映し出されます。約158分の大作。戦争描写の迫力は凄いです。大スクリーンで鑑賞すべき作品です。主演のホアキン・フェニックスは空虚に彷徨う存在感を好演しています。

この映画は、フランス国王の王妃マリー・アントワネットが華やかな人生を失い、ギロチンに連行されるところから始まります。既存権力の終焉です。その瞬間をナポレオンは観衆に混じって、見つめていました(史実とは異なります)。そのときは若い陸軍将校にすぎなかったナポレオンでしたが、「トゥーロンの戦い」の指揮をするチャンスを貰い、成功させます。

ナポレオンは「トゥーロンの戦い」を皮切りに、「ピラミッドの戦い」、「マレンゴの戦い」、「アウステルリッツの戦い」、「ボロジノの戦い」、「ワーテルローの戦い」と、戦に全身全霊を注いでいきます。

ナポレオンの戦略は「戦争する、侵攻する、征服する」の繰り返しです。そして民衆を熱狂させました。彼が確立した「ナショナリズム」は、フランスだけでなく、ヨーロッパ各国に浸透していきます。現代の戦争の姿も同じですね。戦争への陶酔が、国家や民衆の意思を作ってしまう、恐ろしい連鎖です。

でも、本作のナポレオンは、カリスマ性あふれる偉人ではありません。知的でも雄弁でもない、虚しさが漂う人物でした。これに本作品の持つ、「ナショナリズム」への批判を感じました。

つまりわかりやすく言うと、邦画『ゴジラ−1.0』は「ナショナリズム」の高揚を娯楽作品にしましたが、本作『ナポレオン』は「ナショナリズム」は虚しく無価値であると批判的に突き放します。真逆のアプローチです。

さて、ナポレオンは、勇ましいだけではない複雑な人間です。映画では描かれていませんが、ジャン=ジャック=ルソー(人民主権を説いた「社会契約説」を著述)やモンテスキュー(三権分立の基礎と言える「法の精神」を著述)を深く研究しています。1804年に「ナポレオン法典」を制定しています。この民法典では、個人、思想の自由、法の下の平等、私有財産権の不可侵を規定しています。彼の出現は、現代史の始まりです。そして「自由と平等を世界に!」と叫びながら占領政策を拡大します。

一方、この映画に描かれる期間に、ナポレオンの率いた数々の戦闘において、累計300万人以上が戦死しています。「悪魔」とも「食人鬼」とも言われました。彼の人生を言い表すのは、とても難しい。

私は「理想郷(ユートピア)を築くためには犠牲を厭わない」という生き方だけはしたくないと思っています。だから、ナポレオンがどんなに大きな功績をあげたとしても、認めたくはありません。これが、リドリー・スコット監督が描いた、この優れた作品についての私の感想です。

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