映画『パーフェクトデイズ』を観て①
(あらすじ)
東京下町の木造ボロ・アパートで独り暮らしをする平山は、毎朝5時15分に目を覚ます。歯を磨き、口ヒゲを切り揃え、それから鉢植えに水をやるのが、彼の朝のルーティンだ。
そして作業着のつなぎを着て、自宅前の自販機で缶コーヒーを買い、軽ワゴン車に乗り出発する。車にはトイレ清掃に必要な道具が積まれている。平山は、その日の気分に合う古いカセッテテープを聴きながら、仕事場の公衆トイレへ向かう。
最初の公衆トイレに到着すると、トイレの室内、洗面台、便器の隅々まで慣れた手つきで清掃する。同僚の「平山さんは仕事が丁寧過ぎる」という声に耳を貸さず、丹念にトイレを磨き上げて行く。
昼食は、コンビニのサンドイッチと牛乳がいつもメニューだ。いつもの公園の、いつものベンチに座り食べる。樹々の葉を見上げ、長く使い込んだフィルムカメラで、木洩れ日を撮影する。
幾つものトイレを清掃し、仕事を終えると、自宅に戻り私服に着替える。今度は自転車で近所の銭湯へ出かけ、広々とした大浴場で、顔馴染みの他の常連客と風呂を楽しむ。
汗と汚れを洗い流すと、今度は自転車で浅草まで足を延ばす。そして、行きつけの飲み屋でチューハイを飲み、夕食を済ます。家に戻ると、布団を敷き、眠くなるまで古本屋で買った小説を読みふける。
こうして平山の毎日は、ルーティンワークに沿い、淡々と過ぎて行く。そして、彼の表情は、いつもどこか楽しげだ。そんな日々に思いがけない出来事がおきる。それが彼の過去を小さく揺らしていく…。
(感想)
主人公の平山はかつて裕福でしたが、今は違います。それが、自分で選んだものなのか、図らずもそうなってしまったものなのかは、わかりません。人生はそうやって、どこかに辿り着くものだと思います。
平山はトイレの清掃員です。日々、修行僧のように、他人のために、黙々と清掃プロセスを繰り返します。その姿が尊く、美しささえ感じました。
彼の部屋にはテレビもパソコンもありません。彼の日々(パーフェクトデイズ)にあるのは、懐かしい音楽と古本、木漏れ日が作る柔らかな影だけです。嫌なことがあっても、穏やかな気持ちでやり過ごします。そう、豊かな時間を過ごしています。多くの人は、少しでも多くのお金を得て、欲しいものを手に入れたいと思います。そしてなかなか満足できずに、「さらに」と思います。しかし平山は、何を手に入れないけれど、その生活に満足しているように見えます。かつて、彼の身に何かがあったのでしょう。今は「静かに生きていられれば」と思っています。私は「その気持ち、わかるなあ」と思いました。
平山が古いカセットテープを押し込むと、カーステレオから音楽が流れます。ルー・リードの『パーフェクトデイ』(1972年)という曲もありました。私の好きな曲です。「この映画の世界に似ている」と思いました。歌詞と訳詩の一部を紹介します。
Just a perfect day. Drink Sangria in the park. And then later When it gets dark, we go home. Just a perfect day. Feed animals in the zoo. Then later A movie, too, and then home.
I thought I was someone else, someone good. You're going to reap just what you sow.
公園でサングリアを飲んで、ただ完璧な一日。そして、その後 辺りが暗くなって、僕たちは家路に着く。ただ完璧な一日。動物園で、動物達にエサをあげる。それから映画でも観て、そして家に帰る。
なんだか自分が、誰か別の善良な人間のように思えた。自分の蒔いた種は、全て刈り取らなくてはいけない。
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