直木賞受賞作 『ともぐい(作者 河﨑秋子)』を読んで

(あらすじ) ※ 結末にも少し触れます。これから読む予定の方はご注意ください

明治中期の北海道・白糠(しらぬか)。人里離れた山の中で、主人公の熊爪(くまづめ)は、狩りをしながら日々を過ごしていた。鹿や熊を狩り、自分で食べたり、集落で売ったりしている。

人付き合いを疎んじる熊爪だったが、集落では良輔という裕福な男が、熊爪の肉を買い続け、気にかけてくれていた。彼の屋敷には不思議な魅力を持つ少女・陽子がいて、熊爪はその存在が気になっていた。

山で生活をしていた最中、怪我を負った男が熊爪に助けを求めてきた。「穴持たず」と呼ばれる熊に追いかけられ、襲われたという。熊爪は男を助けたいというより、自分の領土を荒らした熊に、これ以上好き勝手にさせないために、渋々男を助ける。

男を助けたあとに、山へ戻った熊爪は、「穴持たず」を自分の手で殺す決意する。熊爪は連れている犬とともに、「穴持たず」の痕跡を探していく。

また、「穴持たず」以外にも別の熊との闘いのシーンが描かれる。こちらは王者の貫禄をまとった熊で、最強の敵だった。苦戦を強いられる熊爪。命の危険性を感じさせるスリリングな場面だ。

物語後半は、山での場面に加え、集落の人物との交流も出てくる。熊爪は、なかば強引に少女・陽子を連れて山に戻っていく。一見幸せそうな生活が始まり、しばらく続いた。

しかし物語は、まさかの結末を迎える。

(感想)

主人公・熊爪の価値観、生命倫理は、現代において受け入れられるものではありません。乱暴すぎて荒々しすぎて、「時と形を変えたゴルゴ13みたいだな」とさえ思いました。熊爪の世界観や殺生に関する考え方は、令和の世では許されるものではありませんが、「そういう原理は無いと言い切れるの?」と言わんばかりに物語はすすみます。

物語の終盤まで、熊爪はたったひとりで生きていました。他人の目がないところで、他人に頼らず、自分ひとりで生きていると、人は何を考えるのか、何に怒り、何に満足を感じるのかというようなところを興味深く読みました。人間の本性について、作者は暴いているように思えました。

人里離れた自然とともに生きる男の逞しさと、傲慢さが全編通じて描かれています。自分が狩った獲物を食べるとき、その人にしか分からない達成感があるのだろうと思いました。

そして一方、これほど女性が野蛮に描かれた作品も稀有です。陽子に逞しさがあってこそ、熊爪との生活があったのだと納得しました。

人はいつか衰えます。年齢的なものかもしれないし、怪我や病気によるものかもしれない。頑強であり続けられる人間はいません。自分の理想の姿が永遠に続くわけではありません。熊爪にも訪れました。

そのとき、何が起きたか? それは本を読んでご確認ください。

自然と近代との対立、オスとメスとの対立といった、さまざまな対立が見事に表現されている小説です。

タイトルの「ともぐい」というのは、何と何の“ともぐい”なのか。読み手によって、答えは違うと思います。

おうちカフェ さんちゃん

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