映画『オッペンハイマー』について
映画『オッペンハイマー』は、アメリカ映画界で最高の栄誉であるアカデミー賞で、今年、作品賞や監督賞など最多の7部門を受賞しました。原爆の開発を指揮した理論物理学者の半生を描いています。
私は観ようか観まいか少し悩んでいます。
主人公のロバート・オッペンハイマーとはどんな人物か。彼は原子爆弾を開発する「マンハッタン計画」に参加するよう頼まれ、計画を指揮する立場になり、人類初の核実験に成功させた人物です。敵国に先を越されないように核兵器を開発しなければなりませんでした。彼は広島と長崎への原爆投下と、その惨状を知り、原爆を完成させたことについて苦悩を深めます。その後、水素爆弾の開発に反対の声をあげ、社会から孤立します。そんな人物です。
映画『オッペンハイマー』では、広島や長崎の酷い被害は描かれていないそうです。私は、核のおそろしさを伝えるのに、それではダメだと思います。ノーラン監督は「オッペンハイマーの経験から逸脱することはしたくありませんでした。オッペンハイマー自身、広島と長崎への原爆投下についてラジオで知ったのです」と語っています。映画では、原爆で多くの人が死ぬ場面がないそうです。アメリカではオッペンハイマーは「原爆の父」と称えられ、原爆投下が日米双方の犠牲者を少なくしたと考える人も少なくありません。日本人で原爆投下が「正当化される」と回答する人は14%と少数派なのに対して、アメリカ人では56%と半数を越えています。
私たち日本人は、唯一の被爆国民として、特別な感情を抱いて、この作品を観ることになると思います。
今日の切り絵は、理論物理学者のアインシュタインです。原爆はアインシュタインの相対性理論をもとに開発された兵器ですが、彼はこのような結果を生んだことに対し、核兵器の廃絶を求めました。
最後に日本の誇る理論物理学者、湯川秀樹(ゆかわひでき、1907年~1981年 ノーベル化学賞受賞者)さんが、原爆投下から2年後の1947年に書いた詩の一部を抜粋して紹介します。
『原子と人間』 (著 湯川秀樹)
やがて二十世紀が訪ずれた
科学者は何度も驚かねばならなかった 何度も反省せねばならなかった
「原子核は更に分割できるか それが人間の力でできるか」
「しかり」と科学者が答える時がきた
実験室の片隅で原子核が破壊されただけではなかった
遂に原子爆弾が炸裂したのだ
川の水で始終冷していなければならない程多量の熱が発生していた
人間が近よれば直ぐ死んでしまうほど多量の放射線が発生していた
人間は遂に原子を征服したのか いやいや安心はできない
人間が「火」を見つけだしたのは遠い昔である
しかし火の危険性は今日でもまだ残っている
放火犯人が一人もないとはいえない
原子の力はもっと大きい 原子はもっと危険なものだ
人間同志の和解が大切だ 人間自身の向上が必要だ
0コメント